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港の見えるスタジオ-1

細長い日本列島の下の方にある九州。その九州の左端にある県。それが長崎だ。

長崎県は島が多く、陸地が少ない。

島が971もあり、三角形の各端っこが陸地で、それ以外は海である。

魚が美味く、祭りが多い。歴史にしても江戸時代から天領として栄え、悲しいキリスト禁教の時代を過ぎ、原爆の悲劇に出会う。

日本でこんなに盛りだくさんな県はここだけだろう。

そんな長崎の県庁所在地は長崎市である。

人口45万人ほどの長崎市の中央には、浦上川が陸を大きく二分している。

東の方が長崎の史跡がたくさんある街である。

オランダ坂やグラバー邸、思案橋と元花街丸山もある。

西の方には戦艦武蔵を製造した三菱造船所がある。

こちらの地区は対岸と呼ばれていて、三菱の城下町と言ってもいいだろう。

この地区には高さ333メートルの稲佐山があり、ロープウェイが麓から山頂まで開通しており、長崎の夜景スポットである。

長崎人から言わせると世界三大夜景の一つらしい。

俺はそれほどとも思わないが、左右に伸びた夜景はそれなりに美しい。

一口に言って山に囲まれた横長いすり鉢のような地形である。

山の中腹まで浸食した家々はびっしりと張り付くように建っている。

坂の街と言われるゆえんである。

長崎は自転車が他県よりも少ない。住んでみればわかるが、平地なのはすり鉢状の底の部分だけで、後はすべて坂だ。

よほど自転車が好きでない奴じゃない限りきついのだ。だから原付バイクの方が多いような気がする。

その稲佐山から、見下ろすと山に囲まれた横に細長い長崎の港が見える。

横に細長い港をはさんで手前側、稲佐山のふもとが対岸地区といわれる稲佐地区である。

その対岸の海沿いの稲佐通り商店街の中の角のビルの2階に俺のスタジオがある。

スタジオのベランダからは海が見える。

この地区は昔漁港であった。長崎市は昔から漁業の街でこの稲佐地区に鉄の船がたくさん係留されていた。

当然街は景気がよくて、漁船の若い船員さんが、腹巻きに札束を突っ込んで歩いていたものだ。

ところが漁業が衰退し、漁港が三重という地区に移転する事になり、稲佐地区は一気に衰退の道をたどろうとしている。

稲佐通り商店街も、もろにその不景気風をうけ、少しづつ店を閉めるところが出てきている。時代とはいえ寂しい限りである。

稲佐山
俺はカメラマンである。

澤田倫太郎という。35歳の独身だ。

地元の公立高校をでて、東京の普通の大学に入学した。在学中写真に目覚めてしまった。

個人のプロカメラマン三名に、アシスタントとして二年ほど従事し、その後独立して東京の代理店相手のカメラマンをやっていた。

あんまりぱっとしない時代だったと思う。映像作家を目指していたつもりだったが、現実は写真職人だ。

いろいろ事情があって生まれ故郷の長崎で写真スタジオをやっている。

東京のように代理店だけやってても食えないのが地方の現状だ。

どちらかというと写真館寄りにしていかないとスタジオをやっていけない。

同じカメラの仕事でも、写真館と代理店系の仕事は、全くの別物だ。

まずフィルムが違う。代理店系は印刷が目的なのでポジフィルムを使う。

写真館は一般人相手なのでネガを使うのだ。

これで撮影方法ががらっと変わる。

地方で写真一本でいくには、とりあえず何でも撮れるような器用さが必須だ。

だから結婚式も成人式も撮る。地域密着型のスタジオにならざるを得ない。

しかしながらどうしても印刷系の仕事が好きなようで、安いギャラでミニコミ相手の撮影も多く手がけている。


第1章 港の見えるスタジオ-1
第2章 女子カメラ-2
第3章 二眼レフ-3
第4章 タイムカメラ-4
第5章 ワームホール-5
第6章 アイドル殺人事件-6
第7章 推理-7
第8章 転びバテレン-8
第9章 デンデラリュウの謎-9
第10章 ペーロン船-10
第11章 ラシャメン-完結

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