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ワームホール-5

幸運といえば幸運。

過去の写るカメラを現実に手にしている興奮が、昨日から続いている。

世間に公表すべきか、独り占めするか。

いやいや、価値にすれば金額はつけられない。

世界中の科学者が欲しがるだろうし、人類の為にもそのほうがいい。

何度も自問自答した。
ただのカメラだ。ふたを開けてもそれらしい仕掛けもない。

フィルムも市販のフィルムだし、現像方法もオーソドックスなやり方である。

何が原因でこうなるのかさっぱりわからない。念のためアシスタントの美穂ちゃんにもシッターを押さした。

しかしそのコマだけ、写っていなかった。

そうすると、俺の能力だと思うが、プロカメラマンになって十三年。

そんなことは一度もなかった。霊感も強くない。

俺がこのカメラを使った時だけ、過去が写るという事しかない。

そうなると世間に公表すると、この俺が拘束される恐れがある。

ソ連やアメリカ、ヨーロッパの諜報部員が俺を拉致しに来る恐れが十分ある。
これはまずい。

にわかに恐ろしくなった。
確かに写真は不思議なものが写ることがある。

心霊写真などもそうだが、ほとんど99パーセントは、偽者やエラー、こじ付けだ。

だけど残りの1パーセントに本当に不思議な写真がある。

このカメラもそうなのかも知れない。

幸いに俺はカメラマンだから、こんなカメラを持って撮影していても、何にも不思議がられないし、アナログでフィルム式なので、一般人がいたずらに撮影することも少ないだろう。

又、過去が写るといっても正確な日時の指定は出来そうもないし、写る時代もアバウトのようだ。

結局、俺は一人でこっそりこのカメラを持つことに決めたのだ。
しかし、なぜ過去が写るのか、絶対に気になる。大学時代の友人にメールを入れてみた。

早稲田大学の教授の笹川だ。物理学が専門で、前同窓会で会った時、アインシュタインがどうとか言っていた事を思い出した。時間と言えばアインシュタインの相対性原理だと直感がひらめいたのだ。
「笹川さあ、タイムマシンで過去に行く事は、理論的に出来ないのか」

「えらい唐突だな。雑誌の企画かなんかの話か」

「そうなんだ。過去が写るカメラがあったらいいなって企画で、いま話し合ってる最中」

笹川の勘違いに俺は便乗した。

「難しいな。しかし過去の写る写真は誰でも撮れるよ」

「おいおい、俺はまじめに聞いてるんだぜ」

「いや本当さ。夜空を見上げて星を見ればいいんだ。あの星の光は何百億光年を旅してきて俺たちに見えてる。つまり俺たちは過去の光を見ているって事だ」

「なるほどな。その話は知ってるぜ」

「実を言うと、学者の中にはタイムマシンを真剣に考えている奴がある程度いるんだ。理論的には出来そうな事だし、夢があるからね」

「へー学者も夢想家がいるのか」

「当たり前だ。学者なんか夢想家の集団みたいなもんだ。アインシュタインは時間旅行を否定していないんだ」

「アインシュタインは偉いね。もう一つ、過去の写るカメラなんて存在は理論的にあり得るのかい」俺は核心に入った。

「過去の写るカメラか。おまえはカメラマンだったな。うーん企画のネタにするんだったら、ちゃんと金を払えよ」

「わかってるよ」

笹川は昔から、金にはうるさい男だった。

ワームホール

「1988年アメリカ、カリフォルニア工科大学のキップ・ソーン教授がワームホールを利用すればタイムトラベルは可能だという論文を発表した」

「それなら知ってるぞ。スタートレックでやってた」

「このワームホールは空間の虫食い穴なのでどこでも出現可能だし、写真なら光だけが通ればいいのだから、1/100秒くらいの時間でも撮影は可能だろう。

たとえばカメラの中にワームホールが存在するとして、シャッターを押した瞬間ワームホールは過去の空間とつながるってのはどうだ」

「なるほどね。それ有りだな。もう一つ、特定の人物だけが撮影できるとしたらその理由は」

「そーだな。人間は意外と特殊能力を持つのが多いからな。たとえばお前はカメラマンだから、カメラマンを例にとろう。カメラマンの条件は何だ」

「うーん。まともに言われるといろいろあるなー。運がいい事かな」

「それだと弱い。たとえばシャッターチャンスがほかの人間と違うってのはあり得る。

100人のカメラマンがいても、全く同じシャッターチャンスというのはないと思う。

何千分の一秒の差でみんな違う写真を撮るだろう。

だからある特定のカメラマンとそのワームホールが住み着いたカメラとがシンクロしている。

そのカメラマンのシャッターチャンスとワームホールが開く時間がシンクロしている。これはどうだ」

俺は息をのんだ。

そうだ。シャッターチャンスの良さというのは、非常に個人的な感覚なんだ。

いいと思える瞬間が特殊なのかもしれない。

「なるほど、いいかも。という事はストロボをたくときと同じように、シャッターを押した瞬間、フラッシュが同調すると同じようにワームホールが開くということか」

「うん。我ながらわかりやすい設定だな。

ほかにも思いついたぞ。宇宙ひもを使ったひも理論とか、量子論のパラレルワールドとか、10次元の世界とか・・・」

「もういい。科学者というのはむちゃくちゃな事を考えるんだな。何となく整理がついてきた。お礼に壱岐の焼酎を送るよ。うまいぜ」

「わかった。今度東京に来たら飲もうぜ。仲間を集めてさ」

「了解。昔のようにな」

15年前の東京時代、みんな金はなかったけど、酒だけはよく飲んでいた。

笹川とは大学2年生の時、星を見る為北海道に貧乏旅行をした仲だった。

青春といえる黄金時代だった事を思いだした。

携帯電話を切ると、現実に戻った。
笹川の話をすべて信じるわけではないけど、そう信じた方が良さそうだ。

なんたって現実に過去が写るカメラを持っているのだから。

とりあえず、俺は納得したのだった。

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