カルチャーショックの長崎盆と精霊流し

【長崎の怪】静寂はどこへ消えた? 爆音と花火に包まれる「長崎のお盆」の真実

日本の夏、お盆といえば何を思い浮かべるだろうか。

しんしんと更ける夜、川面に揺れる幻想的な灯籠の明かり、静かに手を合わせ故人を偲ぶ人々……実に情緒的で、日本の美徳が詰まった光景である。

もしあなたがそんなイメージを抱いたまま、8月15日の長崎市に足を踏み入れたらどうなるか。

間違いなく腰を抜かす。いや、耳を塞いでその場にうずくまるに違いない。

なぜならそこにあるのは「静寂の祈り」ではなく、「けたたましい爆竹の轟音と白煙が立ち込める、ほぼ戦場のような光景」だからである。

今回は、全国の常識を心地よく粉砕し続ける「長崎のお盆事情」について、その歴史と深すぎる愛の形を紐解いてみたい。
 

 

さだまさしが広めた「美しき大誤解」

全国の人々が長崎の精霊流しに抱く「静かで切ない夜」というイメージ。
 
その最大の立役者は、間違いなくさだまさし氏(グレープ)の名曲『精霊流し』である。

哀愁を帯びたヴァイオリンの調べ、美しい日本語で歌われる哀歌。あれを聴けば、誰もが「長崎の人々はなんと奥ゆかしく故人を送るのだろう」と涙する。

ところが現地の実態はこうだ。

  • 街中のコンビニや売店に「耳栓」が山積みされる
  • 飛び交う怒号のような掛け声「ドーイドーイ!」
  • 鳴り響くドラや鉦の音
  • そして容赦なく足元で炸裂する万単位の爆竹
観光客はあまりの音圧に会話すらできず、「思ってたんと違う!」と叫ぶことになる。

実はさだ氏本人も「あの歌は、耳を塞いだときの心の内の静けさを歌ったもの」と語っており、曲に本物の爆竹の音を入れようとしてプロデューサーに止められたという逸話まである。
 
外は凄まじい爆音、心の中だけがしんみり。あの名曲は、超高度な「心象風景の描写」だったのである。

 

なぜ爆竹? なぜあの船? 歴史が作った超ハイブリッド文化

では、なぜ長崎の精霊流しはこれほどまでにド派手になったのか。答えは江戸時代の歴史にある。

かつてキリシタンの町だった長崎だが、江戸時代に入ると仏教への転換が進み、同時に貿易港として多くの中国人(唐人)が移住してきた。
 
彼らが建てた唐寺で行われていたのが、旧暦7月の「彩舟流し(さいしゅうながし)」という極彩色の小舟を海に流す供養と、魔除けのために爆竹を鳴らす風習である。

 
中国の信仰において、爆竹の激しい破裂音と煙は「悪霊や魔物を吹き飛ばす最強の結界」だ。

「ご先祖様の乗る舟が極楽へ向かう道中、悪いヤツらに邪魔されないよう、道中の魔を爆破して道を切り拓く!」

この唐人のド迫力な祈りの作法に、見栄っ張りで新しいもの好きな長崎の町衆が「よかやん!(いいね!)」と飛びついたわけである。

さらに、天に向かって誇らしげに反り立つ船首「みよし」。

あれは和船が荒波を切り裂いて進むための構造部材「水押(みよし)」に由来する。
 
荒波を越えて極楽浄土へ無事に渡れるようにという祈りと、「天を行く魂が迷わず自分の舟を見つけられるように」と家紋や戒名を高く掲げた結果、あの優美で力強い形に進化したのだ。
 

お墓参りでも花火!? 他県民が絶句する夜の墓地

長崎のお盆のフリーダムさは、精霊流しだけに留まらない。お墓参りもまた独特である。

他県でお盆のお墓参りといえば「日中の明るいうちに、静かに手を合わせる」のが常識だ。
 
夜の墓地に行くなど不気味だし、ましてや墓の前で騒ぐなど「不謹慎の極み」として怒られる。

ところが長崎では、夜になると墓地に家族総出で繰り出す。

墓前にはずらりと提灯が吊るされ、山肌の墓地群がまるでお祭りのライトアップのように美しく輝く。
 
そして何をするかといえば、家族みんなで車座になって飲食をし、子どもたちは手持ち花火を楽しみ、大人は景気よく爆竹を鳴らすのである。

初めてこれを見た他県出身者は、「墓場でバーベキューでも始まるのか」と目を丸くする。

だが長崎のお墓には、もともと提灯を立てる金具が完備され、大勢で集まれるよう前庭が広く作られている。
 
これもまた、中国の「ご先祖様を賑やかにもてなす」文化が根付いた結果なのだ。

賑やかさの底にある、不器用なほどの「愛」

静かにしんみり送るのも供養なら、「みんなで笑って、ド派手に賑やかにもてなす」のもまた極上の供養である。

「じいちゃん、寂しか思いはさせんばい!」

「ばあちゃん、迷わんごとお墓も舟も一番明るくしといたけんね!」

耳をつんざく爆竹の煙の向こうで、汗だくになりながら舟を曳く男たちと、それを見送る家族の笑顔。
 
そこには、湿っぽさを吹き飛ばして故人を元気に極楽へ送り出したいという、長崎人ならではの温かい真心が溢れている。

もし今年の夏、あなたが長崎のお盆を体験する機会があるなら、叙情的なメロディを胸に秘めつつ、ドラッグストアで一番性能の良い「防音耳栓」を忘れずに買い求めてほしい。

耳を塞いで初めて、あなたにもさだまさしの「心の静寂」が聴こえてくるはずである。
 
 
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