神話の「陰部(ホト)」と縄文の「石棒」

日本の古い神話(古事記や日本書紀)を紐解くと、「女性の陰部(ホト)に道具が刺さって命を落とす」「神が化けた赤い矢が陰部をついて妊娠する」といった、現代の感覚では少々ショッキングな描写に出会う。

一見すると不気味で奇妙な表現に見えるが、これらは縄文時代から数千年かけて受け継がれてきた「生殖と生命力に対する祈り」が形を変えて物語に定着したものである。

古代人が抱いていた「性」や「陰部」観について、縄文時代の遺物から神話へのつながりを整理して解説する。

 

縄文時代の「石棒」に込められた祈り

縄文時代の遺跡からは、男性器の形態を模した「石棒(せきぼう)」と呼ばれる石器が数多く発掘される。

当時の縄文人にとって、生命が誕生する仕組み(性器)は、「何もないところから新しい命を生み出す、不可視の圧倒的な力(生命力)」そのものであった。

そのため、女性の姿を象徴する「土偶(どぐう)」と、男性の生殖力を象徴する「石棒」を組み合わせ、子孫繁栄や作物の豊穣を祈る祭祀を行っていたのである。

興味深いことに、発掘される石棒の多くは「意図的に火で炙られ、叩き割られた状態」で見つかる。

命の象徴である石棒をあえて破砕することで、災厄を肩代わりさせ、古くなった命を殺して新たな生命へ再生させるという過激な呪術儀式を行っていたと考えられている。

縄文時代の中期から後期にかけて作られた石棒. 出典: 文化遺産オンライン - 文化庁

 

神話の中に形を変えて残った「ホト」の説話

時代が下り、文字や物語が整備されるようになっても、「性器には強烈な呪力が宿る」という観念はそのまま残された。

それが記紀神話における各種のエピソードである。

  • イザナミの火傷 神産みの最後に火の神を産んだ伊邪那美命(イザナミ)は、陰部に大火傷を負って亡くなる。「生命を生み出す最も重要な部位」と「死」が背中合わせであることを示す象徴的な描写である。

  • アメノウズメの踊り 太陽神(アマテラス)が天の岩戸に隠れた際、天宇受売命(アメノウズメ)は胸や陰部を露わにして踊り狂った。これは単なる露出ではなく、陰部に宿る生命力を解放し、死に瀕した世界を再始動させるための真面目な呪術であった。

  • 道具が刺さって死亡する説話 スサノオの暴虐時に天の服織女が機織りの道具(杼)で陰部を突いて即死し、三輪山の神の妻(モモソヒメ)も箸で陰部を突いて命を落とす。最も重要な生命の源泉が傷つけられたことで「呪力が破壊され、即死した」ことを古代独特の表現で表したものであり、縄文人が石棒を叩き割っていた発想と根底で一致する。

  • 丹塗矢(にぬりや)による受胎 大物主神が「赤い矢」に化けて川を流れていき、用を足していた少女の陰部を突くと、少女は神の子を宿した。縄文時代に「土偶」と「石棒」を出会わせていた儀式が、「神の霊力が女性に注ぎ込まれて命が宿る」という洗練された神話へと進化した姿である。

 

AIによるイメージ画像

性的な描写が堂々と残された理由

現代社会では「性」に関する話題は隠されがちであるが、古代人にとって「人間が生まれること」も「作物が実ること」も、全く同じ「自然の恵み・営み」であった。

隠すべき猥雑なものという認識がなかったため、神々の歴史や豪族の血統の正統性を記録する際にも、偽ることなくストレートに記述されたのである。

縄文人が手に持ち、「命が豊かに生まれますように」と祈りを捧げていた石の棒(石棒)。その精神が時代を超えて物語(神話)のコードとして残されたものが、一見ショッキングな「陰部(ホト)」のエピソード群であった。

 

古代神話の描写の根底には、生命誕生の神秘に対する素直な感動と、目に見えない命の力に対する深い敬意が存在しているのである。

 

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