中学生でもわかる量子コンピューターの仕組み――巨大な冷蔵庫と小さなチップの正体
量子コンピューターは実際にはどんな機械なのか
「量子コンピューターは0と1を同時に扱える」と言われても、どうも雲をつかむような話である。そこで難しい理屈はいったん横に置いて、実際にどんな部品を使い、どうやって計算しているのかを見てみよう。
現在研究されている量子コンピューターにはいくつか種類があるが、ここでは代表的な超伝導方式を例にする。
計算する本体は意外に小さい
量子コンピューターの写真を見ると、金色の巨大なシャンデリアのような機械が目につく。
ところが、実際に計算する中心部分は、数センチほどの小さなチップである。
普通のパソコンにはCPUが入っている。CPUの中には大量の小さな電気スイッチがあり、ONとOFFを「1」と「0」にして計算している。
量子コンピューターにも、それに相当するチップがある。
ただし普通のスイッチではなく、非常に小さな超伝導の電気回路を作る。この回路一つ一つが「量子ビット」として働く。
つまり「量子」という不思議な物質を箱に入れているわけではない。
特殊な電気回路を量子の世界で動かしているのである。
なぜ巨大な冷蔵庫が必要なのか
では、小さなチップなのに、なぜ量子コンピューター全体はあれほど巨大なのか。
最大の理由は冷却である。
量子ビットは恐ろしくデリケートである。少しの熱や振動、電磁波などでも量子状態が壊れてしまう。
そこで量子チップを、
約マイナス273℃
という、とんでもない低温まで冷やす。
そのために使われるのが「希釈冷凍機」という巨大な冷却装置である。
写真で見る金色のシャンデリアのような部分は、乱暴に言えば超高性能な冷蔵庫なのである。
主役のチップは小さいのに、それを働かせるための冷蔵庫が巨大なのである。少々ぜいたくなCPUである。
0と1をどうやって作るのか
量子ビットには、エネルギーの低い状態と少し高い状態がある。
そこで、
低い状態=0
高い状態=1
と決める。
ここまでは普通のコンピューターと似ている。
ところが量子の世界では、「0」と「1」のどちらかだけではなく、0と1を重ね合わせた状態を作ることができる。
では、人間はどうやってそれを作るのか。
ここで登場するのがマイクロ波である。
電子レンジにも使われている電磁波の仲間だが、もちろん量子コンピューターでは、はるかに精密に制御する。
量子ビットに決められた周波数のマイクロ波を、決められた時間だけ与える。
すると、
0だけの状態
↓
0と1の重ね合わせ
へ変化させることができる。
要するに、マイクロ波を使って量子ビットを操っているのである。
量子ビットをチームにする
量子ビットを何個も用意し、それぞれを関係させることもできる。
これが量子もつれである。
例えば2個なら、
00
01
10
11
という4つの組み合わせがある。
量子もつれを利用すると、量子ビットを一個ずつバラバラに扱うのではなく、複数の量子ビットの関係を含めて一つの量子状態として扱える。
10個なら1,024通り、50個なら約1,126兆通りの基底状態がある。
ただし、「1,126兆個の答えが一瞬で手に入る」という意味ではない。
ここが重要である。
正解が出やすいように仕掛ける
量子コンピューターは、すべての答えを一度に取り出す機械ではない。
量子には波の性質がある。
池に石を二つ投げると、波と波が重なって大きくなったり、打ち消し合ったりする。
量子コンピューターも、この性質を利用する。
簡単に言えば、
間違った答えにつながる波を弱くする。
正しい答えにつながる波を強くする。
そして最後に測定する。
すると、正しい答えが出る確率を高くできるのである。
同じ計算を何度も繰り返し、その結果を普通のコンピューターで集計する。
実際の量子コンピューターを分解すると
つまり、現実の超伝導量子コンピューターは非常に単純化すれば、
① 普通のコンピューター
「この計算をしろ」と命令する。
↓
② マイクロ波を作る装置
量子ビットを操作する信号を作る。
↓
③ 巨大な冷却装置
量子チップを約マイナス273℃まで冷やす。
↓
④ 小さな量子チップ
ここで量子の性質を利用して計算する。
↓
⑤ 測定装置
量子ビットを0か1として読み取る。
↓
⑥ 普通のコンピューター
結果をまとめて、人間に分かる形にする。
という機械なのである。
魔法のコンピューターではない
こうして見ると、量子コンピューターも意外に現実的である。
小さな特殊回路を猛烈に冷やし、マイクロ波で操作し、その結果を普通のコンピューターで読み取っている。
これが実物の姿である。
そして量子コンピューターは、現在のパソコンの「超高速版」ではない。
普通のコンピューターが一つ一つ論理的に計算するのに対して、量子コンピューターは重ね合わせ、量子もつれ、波の干渉という量子の性質を利用して、答えが出やすい状態を作る計算機である。
未来の魔法の箱というより、
「極端に寒い場所でしか働かない、とても神経質な特殊計算機」
と考えたほうが、実物の量子コンピューターに近いのである。





