遺伝子裁判

晴れ渡るソラから、大きな宇宙船がやってきた。

突然である。

地球中は大騒ぎになった。

宇宙人が降りてきた。

「地球人に告ぐ。反抗しても私たちの科学力は地球の100倍以上も進化しているので抵抗しても無意味である。

とりあえず明日裁判を行なうので代表者1名、宇宙船に出頭しなさい」
地球の各国は相談した結果、国連の代表が宇宙船に行く事になった。

「何の裁判だろうか」

地球人は震え上がった。

翌日、地球代表が宇宙船の中の法廷に出席した。

広い会場で、いろんな姿の宇宙人がぐるりと座っている。

緑色の顔をした宇宙人の裁判官が口らしい器官から音声をだす。

「第6985241裁判の内容。
この惑星で絶滅した生物の遺伝子による訴訟である。

ドードー

代表被告人はドードーの遺伝子。
(ドードーは、マダガスカル沖のモーリシャス島に生息していた絶滅鳥類)

ドードーの遺伝子の訴状によると、ドードーを含め何万もの植物、昆虫、動物を地球人は絶滅に追いやった。

よって、判決を下す」

「ちょっとまってください。裁判長。

いきなり宇宙からやってきて、裁判するとはひどすぎる。

被告人はドードーの遺伝子だって。

私はドードーが何かも知らないんですよ。それに遺伝子に思考があるわけないじゃないですか。

弁護士もいないし、裁判自体が無効です」

地球代表は、この一方的な展開に精一杯抵抗した。

「だまらっしゃい。絶滅種の遺伝子達の訴えは真実である。

ドードーの遺伝子の残留思念が涙ながらに訴えてるのだ。

地球人を罰しろと」

「いやいや、確かに地球人のせいで絶滅した種はあるでしょう。

しかし、過去の人たちがやったことも多いし、現存している私たちが責任を追うというのは、間違っている」

「往生際の悪い種族だな。

地球人は、その遺伝子が主体である。

地球人も生物は遺伝子の乗り物であると言っているではないか。

地球人遺伝子は、地球人が誕生してから、めんめんと生き続けている。

地球人の生存期間は100年未満だが、遺伝子は何万年も行き続けている。

だから、裁判の当事者に間違いはない。

あなたたち固体に対しての罪ではなく、遺伝子に対しての判決なのである」

「わかったような、わからないような。

利己的な遺伝子という説は、リチャード・ドーキンス博士個人の説に過ぎない」
「質疑終了。

判決を言い渡す、人間種の遺伝子に、無期懲役を言い渡す」
「無期懲役とはどういうことですか」

「人間の進化の根本は、遺伝子が自己をコピーして子孫に受け継がれていきながら、突然変異を蓄積して変化してゆくことである。

であるから自己複製をできなくして、遺伝子を拘束する」

「えーと、それは人類が生まれないということですか」

「いやいや、遺伝子を憎んで、人を憎まずという宇宙の原則に従う」

「それでは、人類は今まで通り繁殖できるのですか」

「出来る。しかし遺伝子のコピーはないので、今の人間の同じ遺伝子が、子供に受け継がれていく。

子供はすべて、父か母の遺伝子を持つようになる」

「うーん。いいのか悪いのかわからないが、地球人は存続できるのですね」

宇宙人裁判長は、厳かな音声で続けて話す。

「今回は温情判決である。人類への救済処置を特例としてもうける。

絶滅させた種をすべて復活させる事が出来たら、刑を停止する。

これにて一件落着」

そう言い残すと宇宙船は去って行った。

地球代表を含め、すべての地球人が、空を見上げて宇宙船を見送った。
「なんてことだ。

確かに地球人は、他の種のことなどちゃんと考えていなかった。

宇宙社会からすると、地球人は自分たちの勝手な理由で殺戮を続けていたのだろう。

まさか、遺伝子が罰を受けるとは想像さえしなかった。

これから地球人は、親と同じ子供が何世代も続くということだ。

進化は止まってしまうだろうが罪はあがなわなければならない。

地球人はクローンの技術を完成させた。

宇宙人もその事を知っていて、今の時点でやってきたのだろう。

絶滅させた、すべての種を復活させるには何百年もかかるだろう。

しかし地球人は、やらなければならないのだ。

地球人はやっと子供から大人の入口に立ったのかも知れない」

そうため息をついた。