欧米のSNS規制騒ぎと日本
デジタルスロットマシンを止めるな──欧米のSNS規制騒ぎを冷ややかに眺める
欧米の先進国たちが、突如として「子どものSNS利用禁止」へと舵を切り始めた。
オーストラリアが口火を切り、フランスやイギリス、アメリカの各州までが「16歳未満はアカウント禁止だ」「罰金を科すぞ」と大騒ぎしている。
かつては「表現の自由」「世界をつなぐ革新的なツール」とあれほど持ち上げていたくせに、いざ若者の精神が病み、学力が落ち、睡眠不足で社会問題化するやいなや、手のひらを返して「危険物質」扱いである。
タバコや酒と同じ棚に放り込まれた格好だが、自由と個人主義を尊ぶはずの西洋列国が、国家権力で国民のスマホを取り上げにかかる光景は、なかなかに滑稽で味わい深い。
だが、彼らがそこまでムキになるのには、それなりの理由がある。
その元凶のひとつが、現代のデジタルスロットマシンこと「無限スクロール」だ。
脳をハックする錬金術「無限スクロール」
画面を下から上へシュッと払う。すると、頼みもしないのに次の動画や投稿が勝手に現れる。本のような「ページの終わり」もなければ、「次のページへ」というクリックの手間すらない。
この仕組みを考案した技術者は、後に「人類の時間を無駄に奪う怪物を作ってしまった」と殊勝にも反省の弁を述べているが、時すでに遅しである。人間は「次に何が出るかわからない」という不確定な刺激に対して、強烈なドーパミンを出すように設計されている。パチンコ台の前に座り続ける心理と全く同じだ。
巨大テック企業はこの人間の生物学的な弱点を完璧に理解し、徹底的に磨き上げた。なぜなら、彼らのビジネスモデルは極めて単純で、「ユーザーの滞在時間 × 広告表示回数」でしかないからだ。
あなたの時間、思考、睡眠、可処分精神。それらを1秒でも長く画面に釘付けにすることこそが彼らの売上であり、株価を支える唯一の原動力なのである。「世界中の人々を繋ぐ」という耳当たりのいい理念の裏で、実際に行われていたのは、人間の脳をハックした壮大な時間強奪ビジネスだったというわけだ。
悲鳴を上げるプラットフォームと寄生者たち
EUが「無限スクロールを初期設定で無効化しろ」と命じ、違反すれば巨額の罰金を科すと脅し始めたことで、最も青ざめているのは当然ながら巨大テック企業である。
スクロールが途切れ、ユーザーが「あ、もう寝よう」と我に返ってしまったら、その瞬間に広告枠が消滅する。滞在時間が減れば、株価は落ち、収益は吹き飛ぶ。彼らにとって無限スクロールの廃止は、単なるデザイン変更ではなく、ドル箱マシンの心臓部を止められるようなものだ。
さらに哀れなのは、そのプラットフォームにぶら下がって糊口をしのぐインフルエンサーや広告主たちだろう。
「バズ」という名のアルゴリズムの気まぐれに翻弄され、短い動画を延々と供給し続けてきた彼らも、ベルトコンベアが止まれば一蓮托生だ。流し見の惰性で稼いでいた再生回数は激減し、誰もが途端に厳しい現実に直面することになる。
さて、我らが日本はどうするのか
この騒ぎを前にして、我が国の動きはお約束通りの展開を見せている。
政府の有識者会議あたりが「海外の動向を注視しつつ……」と重い腰を上げ、慎重に検討を始めた段階だ。
これまで日本では、SNS依存もネットいじめも闇バイトへの応募も、すべて「家庭のしつけ」や「自己責任」という便利な言葉で片付けられてきた。
世界屈指の天才エンジニアたちが総力を挙げて作った「依存させる仕組み」に、親の説教や子どもの自制心だけで対抗できるはずがないのだが、見て見ぬ振りを決め込んできたのだ。
おそらく日本が欧米のように「一律禁止」に踏み切ることはないだろう。
「表現の自由」や「通信の秘密」を盾にした反対論が出るのも目に見えているし、何より外圧がなければ動けないのがこの国のいつもの作法だ。せいぜい、欧州の顔色を窺いながら、企業側に「青少年向けの配慮をお願いします」といった骨抜きのガイドラインを出すのが関の山ではないか。
最後に指を止めるのは誰か
結局のところ、問題の本質はシンプルだ。画面の向こう側にいる巨大企業は、これからも巧妙にあらゆる手を尽くして我々の時間を奪いに来る。そこに善意や倫理を期待するほうがどうかしている。
法律で禁止されようがされまいが、スマホという名のスロットマシンにコイン(時間)を入れ続けているのは自分自身だ。
指先ひとつで無限に流れてくる他人の日常やくだらないショート動画を眺めながら、気づけば貴重な一日が終わっている──その虚しさに気づいて自ら画面を伏せる知性があるかどうか。
試されているのは、テック企業の倫理観などではなく、現代人の薄っぺらな自制心そのものなのである。




