制裁された日本人所長と「世界裁判所」の虚構
オランダの綺麗な法廷で、国際刑事裁判所(ICC)のトップを務める赤根智子さんという日本人女性に、アメリカのトランプ大統領から強烈な「お仕置き」が下された。アメリカ国内の資産は凍結、渡航は禁止、普段使っているクレジットカードまで止められるという徹底ぶりだ。理由は単純明快である。イスラエルの首相に「戦争犯罪の疑いがある」と逮捕状を出したからだ。
日本のニュースは大騒ぎになった。「日本人初の快挙」と持ち上げていた法曹界のエリートが、唯一の同盟国であるアメリカから犯罪者予備軍のように扱われたのだから無理もない。
しかし、ここで見ておきたい論点はもっと深いところにある。
論点1:日本の「情けない板挟み」
日本政府の対応は実に腰が引けている。首相は「大変残念」「相いれない」とお茶を濁すようなコメントを出すのが精一杯だった。なぜなら、日本にとってアメリカは絶対に怒らせたくない用心棒(同盟国)だからだ。アメリカに強く文句も言えず、かといって自国の誇りである赤根所長を全力で守り切る気概も見せられない。日本の外交お得意の「曖昧な遺憾砲」を放ちながら、嵐が過ぎ去るのをじっと待つ姿は、お見事なまでの板挟み芸である。
論点2:年間数百億円という「巨額な資金の行方」
さらに皮肉なのはお金の話だ。ICCを動かすために、世界中から毎年数百億円(約2億ユーロ超)という巨額の予算が注ぎ込まれている。そしてその「最大のパトロン(筆頭スポンサー)」の一人が、ほかならぬ日本なのだ。国民の税金からせっせと莫大な維持費を振り込んでいるのに、設立から20年以上で有罪判決が出たのはアフリカの反乱軍リーダーなどほんの数十件程度。「数百億円かけて、クーラーの効いた部屋で議論してそれだけか?」という、超お高いコストパフォーマンスの悪さである。
論点3:警察を持たない「世界の裁判所」という砂上の楼閣
そもそも、この「世界裁判所」というリベラルな夢は、最初から無理があった。学校や日本国内で法律が守られるのは、ルールを破ったら警察が逮捕しにくるからだ。しかし、世界には「世界警察」も「世界軍隊」も存在しない。丸腰の裁判官がいくら法衣を着て「逮捕状!」と叫んでも、核兵器や大軍を持つ大国のトップが「知るか」と無視すれば、手錠をかけにいくことすらできないのだ。
論点4:国際法は「白人たちの世俗的なお作法」にすぎない
結局のところ、国際法という高尚なルールは、メソポタミアの昔から地中海や西欧で練り上げられた「白人たちの世俗的なお作法」である。かつて泥沼の宗教戦争を繰り広げたヨーロッパ人が、「宗教を国際政治に持ち込むとキリがないから、神様は一旦横に置いて人間同士の契約でやろう」と決めただけのローカルルールにすぎないのだ。
それを「全人類共通の正義だ」と世界中に押し広げた結果、イスラム圏からは「神の法を無視するな」と反発され、大国からは「選挙で選ばれてもいない役人が国家主権の上に立つな」と殴り返される羽目になった。ロシアのプーチンを追及したときは欧米から大絶賛されたのに、味方のイスラエルに手を出した途端にアメリカから鉄拳制裁を食らう。敵なら「正義」、味方なら「偏向」。これほど分かりやすいダブルスタンダードもない。
それでもこの「張り子の虎」は必要なのか?
では、ICCはまったく無駄な金食い虫なのだろうか。
実は、そうとも言い切れない。もしこの制度を完全に捨ててしまえば、世界は「強い国が勝てば何をしても自由、大虐殺もやり得」という完全なジャングルに逆戻りしてしまう。今すぐ大統領を逮捕できなくても、「お前のやったことは犯罪だ」と国際社会の台帳に記録し、海外旅行に行けなくするくらいの「嫌がらせ」にはなる。
理想に酔ったリベラル社会がこしらえた、爪も牙もない「張り子の虎」。大国に踏みつけられて情けない声を上げているその虎の維持費を、日本は今日もせっせと払い続けているのである。




