始皇帝
むかしむかし、遠い海の向こうにある、広い広い中国でのお話じゃ。
そのころの中国には、いくつもの国があり、あちらでもこちらでも戦ばかりしておった。人々は戦に巻き込まれ、毎日を不安のなかで暮らしておったそうな。
そんな時代に、**政(せい)**というひとりの男の子が生まれました。
ところが、この子の生まれは少々わけありじゃった。
生まれた場所は、自分の国ではなく敵の国。いつ命を狙われてもおかしくないような、恐ろしい毎日を送っておったのじゃ。
やがて、力のある商人の助けもあって故郷の秦(しん)の国へ戻り、政はわずか十三歳で王さまになりました。
大人になった政は、たいそう頭が切れ、それ以上に恐ろしいほど強い王さまになった。
兵を動かして、まわりの国をひとつ、またひとつと滅ぼしてゆき、三十九歳ごろには、ついに長く続いた戦乱を終わらせ、広い中国をひとつにまとめあげたんじゃ。
そして政は言いました。
「わしは、これまでの王とは違う。これからは『皇帝』と呼ぶがよい!」
こうして、中国で最初に「皇帝」を名乗った男、**始皇帝(しこうてい)**が誕生したのじゃ。
始皇帝は、広い国をひとつに治めるため、さまざまな決まりを作りました。
国ごとにバラバラだった文字やお金、重さや長さの基準をそろえ、道まで整えていった。
さらに北から攻めてくる敵を防ぐため、それまで各地にあった城壁をつなぎ合わせ、大きな壁を築かせた。
これが、のちに「万里の長城」と呼ばれるものの始まりじゃ。
ところが――。
始皇帝は、たいそう恐ろしい王さまでもありました。
自分に逆らう者には厳しい罰を与え、都合の悪い書物を焼かせたとも伝えられておる。
大きな宮殿や墓、城壁を造るため、多くの人々が重い石を運び、苦しい仕事に駆り出されました。
天下を手に入れた始皇帝でしたが、年をとるにつれ、どうしても手に入らないものがあることに気づきました。
それは――永遠の命じゃ。
始皇帝は、死ぬことが怖くてたまらなくなりました。
「死なない薬を探してまいれ!」
そう命じて、家来を遠い海の向こうへまで送り出したり、不老不死に効くといわれる怪しげな薬を飲んだりしたそうな。
天下を取った男が、今度は死から逃げようとしたわけじゃ。
けれど、どれほど偉い皇帝でも、命の終わりだけは命令を聞いてくれません。
始皇帝は旅の途中で病に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
そして始皇帝が死ぬと、それまで押さえつけられていた人々の怒りが一気に爆発した。
国じゅうで反乱が起こり、あれほど強大だった秦の国も、天下を統一してからわずか十五年ほどで滅びてしまったのじゃ。
天下をひとつにした男の国が、本人が死ぬと、あっという間に崩れてしまった。
なんとも皮肉な話じゃな。
けれど、始皇帝が整えた文字や制度は、その後の中国にも大きな影響を残しました。
そして二千年以上たった今でも、始皇帝の大きな墓のそばには、何千体もの兵士や馬をかたどった土の人形――**兵馬俑(へいばよう)**が、ずらりと並んでおります。
まるで今も、死んだ皇帝を守り続けているかのように。
天下をすべて手に入れようとした始皇帝。
けれど最後まで、ただひとつだけ手に入らなかったものがありました。
それは、自分の命じゃった。
めでたし、めでたし――と言ってよいものかのう。




