パスツールとベルナール 病気になるという事
ルイ・パスツールはコッホと共に「近代細菌学の開祖」と言われている19世紀のフランスの科学者である。
結核やコレラなどの感染症の原因を、「細菌」である事を広めた人物で、それ以外にも様々な功績のある偉い人だ。
現代だったら、感染症の病気にかかるのは細菌やウィルスのせいだというのは常識である。
ところがこれに真っ向から反対したのが、フランスの生理学者・ベルナールだ。
病気にかかるのは、その人の体のバランスが崩れているからだと主張した。
これを内部環境説という。
さらにペッテンコーファーという「近代衛生学の父」は、病気になるのは、菌が問題なのではなく、菌に侵されてしまう体の方に問題があるという「人体環境要因説」を唱えたのだ。
つまり病気になるのは、細菌そのものではなく、それによって発病する人間の体調のせいだというわけである。
この19世紀のヨーロッパの討論は、パスツール側が多勢を占めて収束した。
しかしパスツール死ぬ間際に「私は間違っていた」と語ったという。
この話は、現代のコロナ禍にある世界にとって、示唆に富んだ話である。
原因か結果か
例えば新型コロナはウィルスで、いまだに特効薬はない。
こんな状態のときに、人間はどうすればいいのかという事だ。
現実の世界ではPCR検査でウィルスを見つけた人を隔離するという方法をとっている。
これ自体は間違っていない。
だが、地球からウィルスを根絶させることはできない事もわかっている。
なので、withコロナという状況になるのだ。
PCR検査でコロナウィルスを発見したとしても、病気になる人とならない人がいる。
この事が重要である。
ここでパスツールとベルナールの論争が再びよみがえってくる。
こんな話を書けば、新型コロナをなめてはいけないと、医学者から言われるのだが、病気になる原因は、いったい何なのだろうかという話で、べつにコロナウィルスを過小評価しているわけではない。
世界は細菌を含む微生物であふれている。
ウィルスも同じで、人類はウィルスで進化したという説もあるくらいだ。
そんな状況の世界で、人間にとって害をなす細菌やウィルスに対して、どういう風に対処すればいいかというと、新薬の開発も重要だが、感染しても発病しない体を保つことも重要だという事になる。
これは西洋医学と東洋医学の対比とよく似ている。
原因を重視する医学と、結果を重視する医学という事だ。
現在の状況から言えば、ウィルスを避けることも必要だし、不可抗力で感染したとしても、発病しない身体である事も必要だという事である。
再度未知のウィルスや細菌が大発生した時に、生き残れるのは抵抗力のあるものだけだろう。
そうなると、ベルナールの言葉が光を放ってくる。
人間はいつか死ぬし、死ぬことで人口が調節され、新しい世代に道を開く。
だが、死ぬまで体調を管理することが必要だし、体調を崩せばがん細胞や細菌が増殖し死に導かれていくことになる。
運命というのもあるし個体差も大きいので、正解はどこにもないのだが、今回のコロナ禍で、この事を考えたことは、自分にとって大きかったと思っている。