もう一つの岩屋神社
長崎には岩屋神社というのがある。
場所は長崎市立虹が丘小学校のそばにある二の鳥居から山に入り奥にある。
ここには鬼の岩屋という洞穴があり神秘的な雰囲気のある場所である。
その奥に進むと八坂神社と呼ばれる仏像群のある場所と岩屋山稲荷神社がある。
そして、岩屋山への険しい登山道がある。
この道は山頂への最短距離なのだがなにせ険しい。登山初心者の私にすれば、できれば避けたい道である。
岩屋山へ登る道はよく知られたコースでも10本ほどある。
その中で一番簡単な道を選んで登ることにした。
小江原にある長崎警察学校横の車道を車で進み、小江原池と連結する地点まで行きそこから九州自然歩道ルートに乗り入れる。
そこから頂上まで60分ほどの道である。
もう一つの岩屋神社
警察学校横から登る車道に鳥居があり、その奥に小さな祠がある。
その鳥居には「岩屋神社」と書かれている。
虹が丘小学校のそばの神社の鳥居には「巌谷神社」という文字が書かれている。こちらのほうが新しいのだろう。
ここがもう一つの岩屋神社である。
私が行った時は、この祠を掃除する人が清掃していて、荒れ果てた祠ではない。
この祠の入口には修行僧の像がある。弘法大師のようだがそうではないらしい。
この神社は山岳信仰なので、役小角を始祖とする修験道か、真言密教かその他の宗派の修行僧がたくさんこのお山に登っていったので、特定の人物像ではないのかもしれないが、入口には鳥居があり基本的に神社である。
祠の奥に小さな滝の跡がある。
ここにも小さな石の祠がある。多分水神様だと思う。
この神社は、この滝の信仰のために立てられたのではないだろうか。
祠の中にはちゃんとした神棚があった。
神棚の脇には卍のマークと仏壇だと思われるものが祀られている。
典型的な神仏習合の形態である。
融合する宗教
岩屋神社と言えば、多数の神宮寺が岩屋山の周りにあったと記録されている。
神社なのに、その神社に関係した建物は神宮寺という。
つまり神宮寺とはお寺なのである。
これは神仏習合思想によって生まれた日本の信仰形態なのだ。
蕃神(ばんしん)とは、その土地の外部(外国、異国)からやってきた神をいう。
日本に伝わってきた仏教は蕃神だった。
飛鳥時代には、神道と仏教は未統合だったといわれる。
しかし平安時代になり、仏教が一般にも浸透し始めると、日本古来の神道との軋轢が生じ、そこから日本の神々を護法善神とする神仏習合思想が生まれる。
そこで寺院の中で仏(本地)の仮の姿である神(権現あるいは垂迹)を祀る神社が営まれるようになったのだ。
それが神宮寺である。
神様と仏様を比べた時、日本人は仏を主においた。
なぜなら仏様には慈悲の思想や大衆救済の教義があるからである。神道にはそれらはない。
だからこそ、形の上では日本古来の神様を仏様の守護神として体系づけた。
つまり日本の神様は仏教徒を守護する天の神々という事になる。
四天王や金剛力士、八部衆、十二神将、二十八部衆、八大竜王、さらに鬼神ともいわれる阿修羅や鬼子母神、十羅刹女、八大夜叉大将、堅牢地神、風神雷神など、さらには本地垂迹の神や権現、雨宝童子など、すべての神々は仏法を守護する神として護法善神に含まれると考えられる。
ウィキペディア
もともと仏教は、各地の土地の風土に合わせるという性質を持ち、インドだけでなく中国においても土着民族の神々を包摂し習合された。
それなので仏教は日本に伝わると日本の神々も融合してしまったのだ。
よく聞く権現(ごんげん)という呼び名だが、権という文字は「臨時の」「仮の」という意味で、仏が「仮に」神の形を取って「現れた」ことを示すという。
また明神も権現と同じように扱われていて春日大社は春日権現もしくは春日明神と総称している。
長崎の中で例を示すとすれば、「天妃媽祖権現」という呼び名がある。
媽祖(まそ)とは、ランタンフェスティバルで行われる媽祖行列の媽祖である。
媽祖(まそ)とは航海・漁業の守護神として、中国沿海部を中心に信仰を集める道教の女神である。
そんな異国の神も「天妃媽祖権現」と呼んでしまっている。媽祖菩薩とも言われている。神様なのに菩薩という仏様である。
とにかくなんでも信仰の対象にってしまうのが日本である。
来訪神
こんなニュースが最近流された。
日本のユネスコ無形文化遺産一覧 : ナマハゲなどの来訪神、2018年登録決定
https://www.nippon.com/ja/features/h00347/
これらの異形の「もののけ」も、日本の場合、いい神様として取り込んでしまう懐の深さがある。
明治維新の神仏分離令によって権現の多くが廃止となったのだが、現在でも根強く生き残っている。
やはりそれが日本なのだ。
岩屋山登山道は整備されていて、一部きつい所もあるが、逆にそれが山道であることを知らしめてくれる。
道の途中には色んな方向を示した杭が打っていて、それもまた方向がわかり楽しい。
森を抜けると見晴らしのいい高台に出る。
「へー これが頂上か」初めて登る岩屋山。
見慣れた長崎の街だが絶景でもある。
小さな石碑があり神様が祀られている。小銭がおいてあったり飲み物がある。そしてどんぐりもおいてあった。
なんとなくニヤリとしてしまう。
石塔の文字が消えかかっていて、どんな神様が祀られているのか不明だが、岩屋山のあるじの象徴である事は間違いない。
気持ちの良い登山だった。
今度は虹が丘小学校のそばから登ってみようかなと思う。