岩屋山に住む鬼
岩屋神社の写真素材 アートワークスフリーフォト
僕は、大学時代とカメラマンで10年ほど東京にいた以外は、長崎で生きてきた。
しかし、いまだに岩屋山(いわやさん)に登った事がない。
実家は稲佐山の麓の町で、稲佐山はさんざんお世話になってきた。
岩屋山に登った事がない事を友人に言ったら、びっくりしていた。
それほど、長崎人に親しまれている岩屋山である。
岩屋山 (長崎県) - Wikipedia
岩屋山は、長崎県長崎市北西部に位置する標高475.2mの火山である。古くから信仰の山として崇められ、長崎七高山に数えられる。
火山と言われてもピンとこないのだが、長崎市の周辺部を取り囲む岩屋山、稲佐山、金比羅山、英彦山の山々はもともと広い台地状の大きな火山であったと言われている。
つまり大昔は、長崎港はなくて、でかい火山が一個あったと言う事らしい。約50万年前には北京原人が出現したらしいので、はるか大昔の話しである。
岩屋山は祭神は健早須佐之男命。社伝によると和銅年間(708~715年)行基によって建立されたと伝えられるが、創建時期は不明。
行基は偉いお坊さんで、各地で布教のかたわら架橋、築堤、池溝開削、布施(ふせ)屋の設置などにつくして多数の信者を得、菩薩(ぼさつ)とあがめられるほど偉い人で、わが国初の大僧正になった方である。
行基の話しは、やはり伝説であろう。
しかし、かなり古い事は間違いない。
もちろん長崎港は当然無かった。
長崎にいつ頃から人が住み始めたのかという話しになるが、もっと昔、海岸線には縄文時代の遺跡も発見されており、海洋民族として、朝鮮半島をも含め古代文化圏があったであろうと、曾畑式土器と櫛文土器の発掘から推測できる。
しかし、遺跡は壱岐に集中しており、県内の古墳の数は500を超えるが、その大半は壱岐に存在し壱岐古墳群として日本の史跡に指定されている。
長崎市内には牧島町にある曲崎古墳群が有名で、101基が確認され、性格不明の遺構約500ヵ所もある。 だから、長崎は無人では無かったことは確かである。
というよりは、結構賑やかだったのかも知れない。
岩屋神社が建てられとされる時代は、聖徳太子が日本という国名を使っている。
そして、倭国が朝鮮半島での白村江の戦いに敗れたため、664年に対馬・壱岐などに防人や烽(とぶひ)を置き、唐や新羅からの侵攻に備えた。
三国史によると、新羅建国時より日本による新羅への軍事的な侵攻が度々記述されている。
多くの場合日本側が勝利を収め、新羅側は食料・金銭・一部領土等を日本に割譲した。
なお新羅建国の王族の昔氏が倭人とされる
また、「新羅の入寇」と呼ばれる日本への海賊行為も、対馬や北九州で頻繁に勃発しており、取ったり取られたりの戦争が活発だった。
ということは、当然長崎や佐賀にも、様々な人たちがやってきたことは当然である。
そんな時代に、岩屋神社は建てられていることを認識した。
岩屋山には、地面を舟形にくり貫き、内側に壁の様な石垣を施した場所がありインカの石積みと呼ばれているものがある。
インカと呼ばれるのはバイオパーク(動物園)の石積みに似ているからであろう。隠し田とか、窯だという説もあるが、やはり砦の跡であろう。
岩屋山と並ぶ山に稲佐山がある。その稲佐山が記録に残っている。
新長埼年表(長埼文献社) 「肥前古跡記によれば稲佐神の祭神は百済国聖明太子、空海人唐の折、稲佐山に上って怪異あり寺を創して海蔵庵と号す(861)」
岩屋神社 後年、弘法大師がここで護摩の法を修してより寺門大いに栄え、支院三十六。その盛名は崇嶽の神宮寺と並び称され、表裏をなして共に西国有数の巨刹(大きい寺)であったという。
ここにも空海が出てくる。
事実かどうかは不明だが、岩屋山にあった神宮寺が栄えたと書いてある。
長崎開港はこの時代から700年以上後の話である。
それまでは、今とは真逆の岩屋山や稲佐山付近が、長崎の中心だったように思える。
これらの山は外洋にも面している。海上交通が盛んなこの時代だ。
五島、平戸、博多、壱岐、対馬の行き来は、思っているより容易だったに違いない。
そして岩屋山の主役は、山岳信仰の行者達であろう。
役行者神社 権現山 有明町の山伏の墓 山王神社
長崎には、山伏がらみの名前もたくさんある。
空海の密教と山岳信仰、行者、山伏と山文化が花開いた時期とも言える。
岩屋山の鬼の足跡は、山岳信仰の証でもある。
邪馬台国は卑弥呼が使ったのが「鬼道」 魏志倭人伝の中にあるに鬼国、鬼奴国が書いてある。
山伏たちにとって「鬼」とは、修験道の開祖、役小角が従えていたとされる夫婦の鬼のように、信仰の対象だった。
岩屋山の鬼の足跡は、修験道ここにありといった行者達が生み出したに違いない。
長崎の山岳信仰は、それからも続き、後年の長崎開港、キリシタン信仰の時代にキリシタンと対立する勢力となったのである。