蜘蛛の糸

血の池地獄に極悪人がもがいている。

この極悪人は、生前非道の限りを尽くしてきた。

結局、強盗殺人を働いていて、仲間との内輪もめで殺された。

当然、死後地獄に送られてきたのだ。

血の池地獄

永遠ともいえる時間、極悪人は血の池地獄で責め続けられている。

そんな極悪人の前に1本の蜘蛛の糸が降りてきた。

極悪人は、その糸が救いの糸だと直感した。

生前、芥川龍之介の本を読んでいたのだ。

蜘蛛の糸 芥川龍之介

極悪人はその糸にすがりついてのぼり始めた。

ふと下を見ると大勢の亡者が蜘蛛の糸につかまって登ってくる。

「そうだ、ここで下の悪人たちを怒鳴れば、糸は切れてしまうストーリーだった。

切れるのが心配だけど、ここは我慢だ。

この糸はお釈迦様の糸だから、絶対切れないはずだ」

そう考えて、後から来る悪人たちを無視し、どんどん登っていった。

しかし、上には出口が見えているのだけど、登っても登ってもなかなかたどり着けない。

ここで登るのをやめるわけにはいかない。

出口がはるか上にぼんやりと見えているからだ。

何時間も、何日ものぼり続けた。

遠くから見ると、一本の蜘蛛の糸に、地獄の無数の亡者たちが群がって登っている。

その光景を赤鬼と閻魔様が見ている。

「どうです。新しい地獄は」

「ふむ。よく考えたな、赤鬼。そしてこの地獄の名前はなんというのだ」

「へい、希望地獄といいます。

あの糸はお釈迦様の糸ではないので、登っても登っても永遠に極楽へはいけません。

だけど、亡者たちはいつか出れるという希望を持って永遠にのぼり続けるのです」

「なるほど、これは地獄の中で一番恐ろしい地獄だな」

赤鬼と閻魔様は大笑いをした。

閻魔様