女子カメラ-2

2年前から写真記事を連載している「平成長崎マガジン」の泉川から、携帯メールがきた。

「今度女子カメラの連載を始めることにしました。打ち合わせをしたいので、今日の3時にお伺いします。よろしく」

俺の返信はいつも決まっている。

「了解(^_^)」

今度の企画は「女子カメラ」らしい。最近女子のカメラ愛好家が増えている。

たぶん原因はブログの浸透だろう。ブログにきれいな写真を掲載したいというのがスタートのような気がする。

さらに女子カメラ専用の雑誌が、有名出版社から出ているのも流行に拍車をかけている。
ガラスのドアがチリリンとなる。

「こんちわ。泉川です」

背が高く細身。泉川はいつものように、グレーの背広を着ているのだが、極端な撫で肩のせいか、妙に頼りなく見える。

美穂ちゃんは陰で「ねずみ男」とからかっているくらいだ。

東京のカメラマン時代、雑誌で男性モデルを撮影した際、その外人モデルのがっちりとした肩幅を見て、スタッフの年配コーデネーターがため息をつきながら「スーツは肩で着るものね」と言っていたのを思い出す。

少し残念なタイプなのだ。

「美穂ちゃん。コーヒーを入れて」

スタジオの隅の古い応接セットのいすに座り、泉川を招きいれた。

「失礼します」

形ばかりの挨拶で俺の前に座る。

「どうです、釣れてますか」

実は泉川とは釣り仲間である。

先週の火曜日に、神ノ島という所へ行ったのだが、全然だめだった。俺はクロ専門だ。

関東ではメジナという。

釣り師は自分の狙う魚がある。それ以外は外道という。

俺の釣り方はフカセ釣りといい、浮きの類いを極力使わない。

独自の配合で作った撒餌を潮の流れを見ながら打ち込み、クロを浮かせる状況を作る。そして浮き下を浅くとり釣り上げるのだ。

「だめだったよ。潮が悪かったかもね」

「今、三重の方が釣れるって言ってましたよ」10分くらい釣りの話だ。

写真撮影
ひとしきり釣りの話も落ち着き、泉川は用件を切り出した。

「今回の企画ですが、ずばりカメラ女子です」

「それはメールで知ってるよ。具体的にはどうすればいいんだい」

「5回の連載にしようと思ってるのですが、最初の1回はこのカメラで写真を撮ってくれませんか」

そういうと、持ってきたバックから4台ほどのカメラを取り出した。

新しい一眼レフタイプのデジカメが1台、小さいトイカメラが2台、それと古い大きなカメラが1台。

「いろいろ借りてきました。

新しい奴はスタッフから借りてきたので大切にお願いしますね。

高かったそうですから。小っちゃいのはトイカメラです。

評判のいいのを二つ選んできました。

古いカメラはよくわからないんですが、祖父ちゃんの家の倉庫にあったので持ってきました。レトロな感じがしてかっこいいでしょう。

これで女子が好きそうな写真をお願いします。

あっそうだ。美穂ちゃんにも撮影をお願いしますね」

美穂ちゃんは幼稚園の写真の整理で机に座っていた。

「えーいいんですか。私が撮っても」

「お願いします。今回は女子カメラがテーマなので、色んな写真が欲しいんですよ」

美穂ちゃんは俺の顔色を伺う。

俺が幼稚園の撮影以外、カメラを持たせた事がないからだ。

「いいよ、撮りな。これが雑誌デビューになるかもよ」俺が軽口をたたく。

「やったー。美穂ガンバリマス」

茶髪でロングの髪をかき上げながら、大喜びでガッツポーズがでた。

美穂ちゃんこと姫川美穂。二四歳独身である。

「平成長崎マガジン」のに載せた写真アシスタント募集広告でやってきた。面接に来た時、撮影したポートフォーリオを持ってきた。

東京造形美術大学写真学部卒といっているが、腕はたいしたことはない。

大学を出てもアシスタントなどの下積みをしていないのでプロとは呼べない。

元気なのと車の運転が得意というので採用した。

もう1年くらいになろうか。美人とは言いがたいが丸顔で目が大きいので優しい感じがする。

自前のカメラはペンタックスを使っているという。

泉川は一通り企画の説明を終えると、出されたコーヒーを飲み、腕時計と携帯を交互にチェックすると、「そいじゃ、よろしくお願いします」と言って出て行った。


第1章 港の見えるスタジオ-1
第2章 女子カメラ-2
第3章 二眼レフ-3
第4章 タイムカメラ-4
第5章 ワームホール-5
第6章 アイドル殺人事件-6
第7章 推理-7
第8章 転びバテレン-8
第9章 デンデラリュウの謎-9
第10章 ペーロン船-10
第11章 ラシャメン-完結