テーブルには4台のカメラが置いてある。
一眼レフ仕様のデジカメは今流行りである。
女子カメラで人気なのは被写体のバックをめいっぱいぼかした撮影方法だ。
そのためには明るいレンズが必要だ。このデジタル一眼はそれが出来る。
色も多彩で、大きさも小さい。
ただ、俺からいわせると使えないカメラである。
それはファインダーがないからだ。
後ろのモニターでピントを合わせたりアングルを決めたりするやり方で、まるでビデオみたいだからだ。
ファインダーがないと素早い動きに対応できない。残念ながらプロは使えないのだ。
しかし、コンパクトカメラは今このモニター方式がほとんどになっている。わかりやすいんだろう。
トイカメラは名前の通りオモチャのカメラだ。
チャンと写らない分、写真に不思議な面白さが出る。
ほかの3台とは明らかに違うカメラがあった。
縦型で前方にレンズが二つ付いているカメラだ。
二眼レフという。レフはレフレックスの略でカメラに仕込まれている鏡の事を言う。
カメラファンなら当然知ってる人も多いと思う。
C330と言う。正確にはマミヤC330プロフェッショナルという。
昭和44年に発売されたカメラで、世界唯一のレンズ交換可能な二眼レフカメラという代物。
実は俺にも馴染みがあり、大学の写真部にいた頃、先輩が自慢げに見せびらかしていたやつだ。
現在はデジタル一眼レフが主流でこんなカメラはレトロ以外何者でもない。
しかも、このカメラはを普通の人が扱うには難しすぎるだろう。
露出はマニュアルだし、フィルムはブローニーだ。素人向きではない。
まず、フィルムを使う。もちろん現在でもフィルム式カメラは健在であるが、プロカメラマンの世界でも、学校アルバムのスナップ関係、婚礼写真などは35ミリカメラはほとんどデジタルを使っている。
なにせ扱いが簡単なのだ。フィルム代もいらないし、現像もしなくていいからである。
ただ、かなり進歩したデジタルの画質には限界があり、大判のフィルムに匹敵するくらいの画質も持つ事が出来るようになるには、かなり先になると思う。
だから、プロの世界では相変わらずフィルムが主流である。
扱いにくさやマニュアルしかない操作を除けば、画質はすばらしい。
何せフィルムが大きいのだ。使おうと思えば、仕事にも十分使える。
「美穂ちゃん、このカメラ知ってるかい」
「えー、どのカメラですか。この大きいレンズが2つ付いてるやつですね。大学の授業で見たことはありますよ。日本製じゃなかったですよね」
確かに二眼レフカメラの元祖はドイツのローライフレックスというカメラだ。
授業で使うんだったら写真の歴史を踏まえてドイツ製を使うのだろう。
「へー。レトロですね。触っていいですか」
一応写真大学卒なので、興味はあるみたいだ。
この手のカメラは上部のふたを開け、上からのぞき込む。
ファインダの写る像は左右逆像になるので、慣れが必要である。
また、腰の高さにカメラを構えて写すために、このタイプのファインダーを「ウエストレベルファインダー」という。
「へー、ふたを開けてここから覗くんですよね。きゃー逆さまに写ってる。絶対変ですよね。こんなの絶対無理」
阿呆か。大学で何を教わってきたんだ。プロの定番カメラ、ハッセルブラッドだって同じだよ。
デジタルで、オートフォーカスで、自動露出のカメラしか触ってない。
よくそれでプロになろうと思ってるな。
わーわー言ってる美穂ちゃんをほっとき、何を撮ろうかなと考え始めた。
第1章 港の見えるスタジオ-1
第2章 女子カメラ-2
第3章 二眼レフ-3
第4章 タイムカメラ-4
第5章 ワームホール-5
第6章 アイドル殺人事件-6
第7章 推理-7
第8章 転びバテレン-8
第9章 デンデラリュウの謎-9
第10章 ペーロン船-10
第11章 ラシャメン-完結