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推理-7

事件以来、美穂ちゃんは精力的に、インターネットを駆使して情報を収集している。週刊誌も買っていて、僕にその記事を読ましてくれた。

リアル真理亜白書というタイトル記事で、5ページほど稲生真理亜特集を組んでいる。

記事によると、最近よく流れている車のCMが気に入っているようで、よく友人に話していたという。

車のCMの歌というのが「でんでらりゅう」である。

「お母さんが、時々口ずさんでいたの。へんなうたでしょ」

「お母さんの遠い祖先が長崎に住んでいたそうで、代々お母さんの家系で伝わっているものが二つあるの。

一つがこのカメオとデンデラリュウの歌なの。

デンデラリュウの歌には私だけが知ってる秘密があるのよ。

内緒だけどね。

フフフ(笑)」

楽しくインタビューに答えている写真と文章が載っている。

雑誌の写真の一枚にカメオが写っていてその中には絵が入っている。カメオには珍しく観音様が入っている。
「ふーん。長崎に関係あるんだね。真理亜は」

「でしょ。いろいろ今回の事件でピンときた事があるんですよ。それは」
美穂ちゃんの話の腰を折るように、スタジオのドアが開いた。

「こんちは、先生いますか」

「平成長崎マガジン」の泉川だ。

「あら泉川さん、こんちは。先生ならいるわよ」

「美穂ちゃん、ワイドショー見た?」

美穂は待ってましたとばかりに、話に入る。俺があんまり相手をしないので、ストレスが溜まっていたようだ。

「見たわよ。当たり前でしょ。外人墓地の事件なら私に聞いてよ」

話が長くなりそうなので、俺が返事をする。

「どうしたの。女子カメラの撮影は始まったばかりだから、何の進展もないよ」

泉川は応接セットに勝手に座って話す。

「実は編集長から、取材しろって言われたんですよ。うちはミニコミなんで地元の殺人事件など載せないんですが、ほら、被害者が人気抜群の真理亜でしょう。なんかネタを仕入れといて、後で使うと思うんですが」

「きゃー泉川さん。私も仲間に入れてください。一度やってみたかったんです。事件カメラマンを」

美穂ちゃんのミーハーぶりが痛い。

「取材を手伝ってもらうのはかまわないですが、ギャラは出ないですよ。それでもいいならお願いします。
今日スタジオに来たのは、先生に頼みがあってです」

「どんなことなんだい」

「あの事件の事なんですが、通りいっぺんの事は週刊誌や新聞、ネットの方で調べればわかるんですが、ほら、犯人の意味不明な言葉とか、ダイイングメッセージの事とかちょっと謎めいてるでしょ。

澤田先生は、このあたりの地域に当然詳しいと思うけど、長崎の郷土史にも詳しかったですよね」

確かに、地元の話は大好きで、自信はある。

「犯人の転びバテレンとか、真理亜のリュウバって言葉。

これがさっぱりわからないんですよ。僕の地元は福岡だから、長崎の事はわからないんです。頼みます。調べて下さい」

泉川は本当に困っているようだった。
美穂ちゃんは待ってましたとばかり話し出す。

「閃いたんですけど、言ってもいいですか」

美穂ちゃんはミーハーだけど、女性の勘というかなかなか鋭いところがある。

「まず、転びバテレンでしょう。真理亜の祖先は隠れキリシタンの可能性を発見したの。

それは真理亜が大切に持っていたカメオの中に子供を抱いた観音様の絵があったでしょう。あれって隠れキリシタンのマリア様だと思うの。

マリア観音

真理亜も名前が同じなので大切に持っていたと思うの。

犯人もたぶんこの観音様を見てそう思ったと思うのよ。理由はよくわかんないけど。きっとそうだと思うの。

後リュウバなんだけど、これも雑誌に載ってたデンデラリュウの歌の事だと思うの。

この歌詞はでんでらりゅうば、でてくるばってんと歌うでしょう。そのリュウバよ」
なるほど、鋭い推理だ。

泉川は本当に感心したような顔になった。

「美穂ちゃん。すごい、すごい」

美穂ちゃんの低い鼻が、得意げにぴくぴく動いてる。僕はその先が聞きたかった。

「美穂ちゃん、それからは」と推理の続きを催促した。

「それからって、それだけよ」

美穂ちゃんは知らん顔している。
どうして女は理論がなくて直感でいろんな物を導き出せるのか。たぶん、そういう生き物だろうな。

俺はそれ以上聞きはしなかった。泉川も何となく、一人で盛り上がっていた気持ちをどこに持って行けばいいのか困っているらしい。

「澤田先生、お願いしますね。また来ます」

「う、うん」

つい了解の返事をしてしまった。

まーいいか。嫌いじゃないし、あのカメラももらったことだし。

断れば返せとも言いかねないから。
そうして、この事件の謎解きが始まった。

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