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アイドル殺人事件-6

モデル

その日長崎市内は大騒ぎとなっていた。

スタジオの近所の稲佐国際墓地という場所で、現役のアイドルモデルが殺された。

背中には大型ナイフが突き刺さっていた犯人は39歳の男性。

「この、転びバテレンめ」そう叫んで、稲生真理亜にむかってナイフを逆手に持って、ぶつかっていったという。男は、その場に立ち竦み、目を血ばらせ、ぶつぶつ何かをいっていた。

稲生真理亜は刺された腹部を押さえながら、「リュウバ・・」とかすかにつぶやいて意識を失ったという。
関係者がその場に居合わせ、殺人現場を目撃。警察に通報。巡回中の警官が、現場に急行し、男を確保しようとしたが、男は持っていたナイフを自分の心臓につきたて、自殺した。

警官は救急車を要請、犯行現場の2名を緊急病院へ搬送されたが救急車の中で、絶命した。死因は出血多量によるショック死だった。

稲生真理亜は救急車の中で息絶えた。
稲佐国際墓地から、俺のスタジオまでは歩いて15分ほどの距離だ。大騒ぎがここまで広まっている。

美穂ちゃんは、スマホのワンセグにかじりついている。この事件の色んな情報は、テレビを見るより美穂ちゃんに聞いた方が早いし深い。

たぶん・・・。聞いてみるとその通りだった。
稲生真理亜は現在25歳。17歳の頃にモデルとしてデビューし、その後、雑誌 『ヤングセンス』の表紙モデルとなった。

飲料水のCMで注目を集め、トップアイドルの一人となった事。

今回はテレビ番組で「長崎を歩こう」という番組のロケ中の休憩時間に起きた事。

犯人が「この、転びバテレンめ」という言葉を吐いて自殺し、原因は今流行りの脱法ハーブらしい事。

稲生真理亜は死ぬ直前に「リュウバ」と言った事。

なるほどよく知っている。

「美穂ちゃん、なぜ稲佐の外人墓地なんかでロケをしたの」

美穂ちゃんの目は探偵みたいに真剣だ。

「ほら、前の国営放送の大河ドラマで坂本龍馬をやってたじゃない。その主役の生家が墓地の近くなのよ。

それと真理亜には少しロシア人の血が混じってるらしいの。真理亜の遠い祖先は長崎に住んでいたというのもあり、外人墓地も散策って言うカットを撮りたかったらしいの」

「なるほどね」

稲佐悟真寺国際墓地

稲佐の外人墓地は、正式には稲佐悟真寺国際墓地という。

中国、ロシア、オランダ、イギリスの墓があり、ロシアのゴルバチョフ大統領が訪れたこともある由緒正しい国際墓地だ。僕たちの小さな時は、遊び場になっていて、外人さんの墓を野球のベース代わりにして野球をするなど今考えると罰当たりな事ばかりしていた。

稲佐界隈では「アチャバカ」と言っていたのを思い出す。阿茶さんとは、中国人の人の事をいい、中国人の墓も多いのだ。

「撮影現場には、スタッフやカメラマン、それと見物人もたくさんいたのに、よくスターの女の子に近づけたね」

美穂ちゃんは、丸顔で垂れ目なのだが、その額にしわを寄せて古畑任三郎モードに入っている。

「そこなのよね。ほら外人墓地は普段鍵がかかってるでしょ。そこには1人のスタッフとカメラマンしかいなかったのよ。

イメージカットだけ撮ろうと思ったらしいの。少し撮って休憩していた時、ほらあのロシア人の墓地の端っこにロシア正教の礼拝堂の古いのがあるでしょう。

その陰に犯人が隠れていたのよ。

あそこは上の段の墓から飛び降りれば行けるじゃない。

真理亜ちゃんが珍しがって礼拝堂を見に行ったと思うの。その時にあの男が飛び出したの。

ほらラリってるから執着心が強いのよね」

まるで、見てきた様な事を言う。しかし事実もそうなのだろう。

「犯人が転びバテレンめって言っただろう。なぜなんだろう」

「転びバテレンって、隠れキリシタンが拷問に耐えかねてキリスト教をやめたときに言う言葉でしょ。江戸時代の話よね。真理亜の祖先がそうだったかもね。いやこれは憶測だけど。謎が深いわよね」

「なるほどね」

美穂ちゃんの言う通りかもしれない。犯人は脱法ハーブで正常じゃなかったので、何か思い込みがあって口走ったのかもしれない。

「リュウバって殺された真理亜は口走ったよね。なんだろうリュウバって」

「先生そこよ。ダイイングメッセージって奴よ。普通の推理小説じゃ謎の犯人を示す言葉なんだけど、今回は犯人はいるしね。何か別の意味なんだわ」

美穂は、自分の作業机に戻ってパソコンを開いた。今の事を調べるつもりなんだろう。

確かに、フェイスブック、ツイッター、2チャンネル。色んな事が事実も噂もまぜこぜになってネットを駆け巡っていくのだ。
俺はこの事件にもう飽きてしまっている。

タイムカメラの方が気になってしょうがないのだ。

俺も机に戻って、コーヒーを飲み始めた。

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