ワニに関しての覚書ノート(3) 和珥氏(わにうじ)
東南アジアの昔話が日本に伝わってきたという説だが、間違いないと思う。
松谷みよ子『心をそでてる松谷みよ子の日本の神話』講談社(2010)では このように説明されている
「このわには「サメ」という考え方が一般的になっている。出雲の 方言ではさめのことをわにと呼ぶからだ。しかしわにはやはり川にす むわにだと言う考えがある。東南アジアではかしこい動物がわにをだまして、その背中をふんで歩くといった話が伝わっている。南の国か ら海を渡って伝わったとも考えらる。」『いなばのしろうさぎ』 (部分) 赤羽末吉 絵/舟崎克彦 文 あかね書房 1995
しかしワニ話は地域限定のようだ。ネットでワニ話を探しても島根県の「影ワニ」という話か探せなかった。
影ワニ
石見の民話 第一集(日本の民話67),大庭良美,未来社,原題「影ワニ」,原話「温泉津町の伝説」 場所について 温泉津日祖のアバヤ沖 島根県大田市
しかし、島根ではワニといえば鮫の事で、川に住むワニのことではない。
もしかしたら、ワニという言葉が先にあって、口がでかいとか獰猛だという聞き伝えから、鮫のことをワニと呼んだのかもしれないと思う。
やはり山陰あたりには東南アジアの話がしっかり伝わっていたのだろう。日本にいないトラも、架空の神獣龍も、中国の話しがすっかり根付いている日本である。十分あり得る。
まあ、フィリッピン人が日本の山陰に移住したわけではないので、外国と行き来があったのなら自然と流れてくるのだろう。
出雲は日本海の文化圏の中心だとも言われ、大陸とも行き来があった。色んな話が出雲に流れ込んでも不思議ではない。
和珥氏(わにうじ)
ワニという名字を持つ豪族がいる。
和珥氏(わにうじ)は、「和珥」を氏の名とする氏族。5世紀から6世紀にかけて奈良盆地東北部に勢力を持った古代日本の中央豪族である。
出自については2世紀頃、日本海側から畿内に進出した日の御子信仰または太陽信仰をもつ朝鮮系鍛冶集団とする説や、漁労・航海術に優れた海人族であったとする説がある。
氏族名の「和邇」とは「鰐」のトーテムを意味すると考えられ、龍蛇・鰐信仰を持っていた海人族の阿曇連と行動形態、信仰・習俗が類似することから、本来は阿曇連と同族の地祇系氏族で、その祖神は綿積豊玉彦命であったと見る説がある。
あずみ族は日本古来の海人族で、大和朝廷に協力した人々である。この一族が、一族の守り神のワニを名乗っていることを知れば、ワニが川のワニであることは間違いと思う。
一説だが、2世紀頃やってきたとなれば、話は大きく違ってくる。
なにせ、まだ大和が固まっておらず、邪馬台国もなく、吉野ヶ里遺跡あたりの集落が盛んだったかも知れない時代である。
そんな時代に、ワニをトーテムとする一族が日本海側から畿内に進出したかもと書かれている。
ただ朝鮮系鍛冶集団という事だが、朝鮮にもワニはいない。
古代中国大陸も南の方の歴史は混沌としているので、やはりワニのいる地域からの部族だと思う。
そんな時代から川のワニは大和に知られていたという事になるので、やはり因幡の白うさぎのワニはワニだったのだ。
金刀比羅宮
さて今回の金刀比羅宮(ことひらぐう)の神様が、インドの神様のワニ(クンビーラ)であることから、因幡の白うさぎのワニと関係があるかもしれないという思いつきから文章を書いたのだが、どうも当てが外れたようだ。
金刀比羅宮の由緒についてはいくつかの説があり、大物主命が象頭山に行宮を営んだ跡を祭った琴平神社から始まり、中世以降に本地垂迹説により仏教の金毘羅と習合して金毘羅大権現と称したとするものであると書かれている。
しかし、存在していたのは香川県の琴平町の象頭山中腹に鎮座する、特定の宗旨・宗派のグループに所属していない神社である。
由来には大物主が出てくるが、他の文献にはその事は出てこず、権威付けのために付け足された逸話である。
金毘羅さんが日本で流行った時期もかなり新しいし、ワニの話も出雲だけだった。
和珥氏(わにうじ)という古代海人族と関係があるのかなと思ってだいぶ調べたが、空振りだった。
琴平町の神社だから、ことひらがコンピラになったのだろう。象頭山の象だって日本にいないのだから、象の頭など知る由もないはずだからだ。
ワニが神様になる経緯は、稲荷が狐になったのに似ていると思う。
稲荷神ときつね
稲荷神と習合した宇迦之御魂神の別名に御饌津神(みけつのかみ)があるが、狐の古名は「けつ」で、そこから「みけつのかみ」に「三狐神」と当て字したのが発端と考えられ、やがて狐は稲荷神の使い、あるいは眷属に収まった。
うーん。
もしどこかでワニに関して、新しい資料や言い伝えが出てきたら、意見が変わるかもしれないが、現状ではシロと判断した。
まあ、よくあることだ。覚書ノートだから、調べたことはとっておく。
いつか、この文章を引っ張り出すかもしれないからだ。
とりあえず、今回は終了とする。