昔話にワニや亀が何故出てくるのか
今まで不思議だと思わなかった事が、ある場所に行った時その「意味」が感覚でわかる事がある。
今回の旅でその事が起こった。その事を伝えたい。
青島
行った場所は宮崎の青島である。
ここには青島神社があり、とても綺麗で不思議な場所だった。
海岸から小さな青島に向かう道があり、その周りを波で変形した岩が囲っている場所だった。
解説によると、古くから青島自体が霊域として崇められており、そこから江戸時代まで全島が禁足地とされていたとある。
その事はこの島を見れば納得できる。
ここに祀られているのは、彦火火出見命(ひこほほでみのみこ)ととその妃神 豊玉姫命(とよたまひめのみこと)、そして塩筒大神(しおづつのおおかみ)を祀っている。
彦火火出見命は海幸彦、山幸彦の話の山幸彦でもある。
この話はとても有名で、当然皆さんもよく知っている話なので内容は省略するが、民話の浦島太郎の元になっている話だ。
ここで登場するのが亀である。
亀についての説明は全くいらないほど、日本人に馴染みのある爬虫類である。
青島神社には、特別亀を祀ってはいないが、しいて言えば島全体が亀のようでもある。
山幸彦と豊玉姫命がいるのだから、ある意味ここが竜宮城ともいえる。
青島神社の周りには鬼の洗濯板と呼ばれる異様な岩がある。
この岩をよく見ると、亀に見えてきた。
写真を見て欲しい。岩は亀の甲羅のようにも見えるし、見方を変えれば亀が群れをなしているようにも見える。
おとぎ話の浦島太郎になぜ亀が出てきたのかが、その時理屈ではなく視覚で理解できた。
「なるほど、だから亀か」
そう単純に思った。
もちろん、他の人の目から見れば違うと思うのかもしれないが、私は妙に納得したのだった。
古事記の山幸彦の話では亀は出てこない。
古事記では、小船で綿津見神(海神・わたつみ)の宮殿へいっている。
亀が出てくるのは、「御伽草子」(おとぎぞうし)という室町、鎌倉時代に広まった話から出ている。
この話の解説は多数出ており、元になった話も多数存在するという。意味深長な話なので、この話に託されている謎を解くのも楽しそうだ。
その謎解きは置いといて、竜宮、黄泉の国、異郷いずれでもいいが、主人公をそこに運ぶ役割が「亀」だというシュチエーションに特別疑問を持っていなかった。
動きが鈍いのでいじめられたり、人を乗せたりという場面は「亀」抜きでは考えられないほど、私の頭の中には定着している。
この話に「亀」をキャスティングした人がいると思うのだが、「亀」を持ってきた理由が、青島の海岸を見れば納得できた。
もちろん浦島太郎の伝説は全国にあるので、青島の鬼の洗濯岩など全く関係のない地域の方がほとんどだ。
しかし、この青島に浦島太郎のもとになった山幸彦が祀られていることを思えば、やはり青島の光景が物語の原点だと思えるのだ。
鵜戸神宮
青島から南に行くと、また重要な神社が有る。
鵜戸神宮である
ここには青島神社の彦火火出見命の息子が祀られている。その息子の名前はウガヤフキアエズのミコトという、とても変な長い名前の神様である。
この神社の光景も特筆すべきものだった。
なにせ海岸の崖に作られていて、神社は岩の中にあるのだ。
この神社も海岸は鬼の洗濯板に囲まれているが、断崖の岩を見るとここにも亀がいた。
「ここにも亀がいる」と目を見張った。
私の直感の話で申し訳がないが、日本人の中には亀の話がたくさん有る。
いやありすぎると言っていいだろう。
近年の「ガメラ」を含め、日本人の亀好きは度を越していると思うのだが、原点は、宮崎の鬼の洗濯板ではないかと、本当に思ってしまった。
出雲大社
出雲大社にも亀は色んな所に出てくる。まず出雲大社の紋が六角形の亀甲の形をしている。
そして神様がすわる座も六角形の亀甲形である。まるで亀の上に神様が乗っているようにも見える。
いや亀甲紋は日本中に有るし、考えすぎだという方がほとんどだと思うが、日本内でも古さを競う出雲大社が亀の紋というのは、やはり意味があると思う。
さて、出雲にもおとぎ話が有る。
それは、いなばの白うさぎの話である。
うさぎがワニを騙して島へ行くのだが、途中でバレてしまい皮を剥がされるという話である。
この話で不思議なのが、ワニを海で並ばしてその上を渡るという描写である。
そんな事はあるわけがない。
それにワニが出雲の国にいるわけがない。
ところがサメの古名は鰐魚(和邇・わに)という。顎の魚と言われれば、映画のジョーズも顎のことだし、十分理解できる。
しかし、ワニがサメだとしても、島へ向かってサメが並ぶなんていう絵が思い浮かばない。
ところが宮崎の鬼の洗濯板をみた時、
「ああ、ワニが並んでいる」
そう思った。
出雲と宮崎では相当距離が離れているが、両方共古代大和の重要な地点である。
ましてやおとぎ話である。何処でどうゆう経路をたどったのかを調べるのも面白いと思うが、いなばの白うさぎの話のロケーションは宮崎の海岸線だという確信が湧いてきた。
ワニ(サメ)がプカプカじっと動かずにいて、その上をぴょんぴょん渡るというシーンのシナリオは、机上の空想だけでは、決して浮かばないと思う。
ところが、この宮崎の鬼の洗濯板の光景を見たなら、そんなシーンは思いつくだろうなと思うのだ。
理屈や話、説はあとまわしで、まず不思議な光景が先にあったのだ。
例えば、富士山という素晴らしく綺麗な山をみて、様々な信仰や話が出来上がったのである。
山の中にある激しく高い滝を見て、龍神信仰が起こった。
宮崎の鬼の洗濯板と呼ばれる岩たちは、古代日本の原点なのかもしれないと、今回の旅行で強く思ったのだ。
まあ、神話の中にも宮崎のことは深く書かれているので、多分間違いない。
百聞は一見にしかず。
まず、その場に立って感じて欲しい。